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桜散る中 第四章

朝方はあんなに寒く感じたのに、四月の午後は少し汗ばむほど暖かい。私たちはスーツの上着を脱ぎ、膝に抱えて座った。そばにある桜の木にかけようとも思ったのだが、あの話を聞いた後ではさすがに気が引けた。
芝生に腰を下ろすと若葉の心地よいにおいが体を包んだ。ブラウス姿になった啓子を見ると、細い体の割りに結構胸が大きいなと思った。
「何?」
あまりに私がじろじろと見るので啓子は少し戸惑いながら聞いてきた。
「あ、ごめん。啓子ってスタイルいいなぁと思って」
「そんな、あけみの方がスレンダーでかっこいいわよ」
「ふふ、ありがとう」
そこで一瞬の沈黙があった。私はすかさず、啓子の表情を見た。思ったとおり、彼女の目は、何かにおびえたように伏せられていた。
啓子と会ったときから感じていた。この子は何かに怯えている。それも、特定のものというよりも周りの環境の全てに気を張り巡らせ、いつでも身を守れるようにしている感じがした。だから私は彼女に興味を持ったのだ。
私は小さいときから敏感な子どもだった。人のわずかな表情の変化、声の変化でその人の感情を手にとるようにとまではいかなくとも、かなり正確に把握することができた。しかし、それでいい思いをしたことはない。不器用な私は思ったことをすぐに口に出してしまった。それだけなら良かったのだが、私は人の負の感情を特に敏感に感じていた。今考えれば馬鹿だったと思う。人は誰でも特に負の感情の時にはそのことに触れてほしくないものなのに。私には周りの人たちが私を嫌いになっていっているのが手に取るようにわかった。表面上ではにこにこしていても、微妙な表情の変化や声のトーンでばればれだった。だから私は彼らに対して壁を作った。中には興味を持って私に近づいてくる人もいたが、決して心を開こうとしない私に、皆愛想をつかしていった。
そんな私が啓子に興味を持ったのは、彼女が私と同じことをしていると思ったからだ。午前中に始めてあったとき、目薬を貸してと言ってきた啓子は私の感情をたくさんある触手の一本で探りを入れるように推し量ろうとしていた。私はとうの昔に他人と仲良しごっこをする気はなくなっていたのだが、そのことが逆に彼女を混乱させたのかも知れない。何を考えているのかわからない私に対して啓子は戸惑ったのだろう。それが彼女の一瞬の間に現れるあの不安そうな表情を作り出したのだろう。
さらに私の啓子に興味を強めたのは、彼女の心が硬い殻に閉ざされているのを感じたからだ。不安そうな彼女の表情から私は啓子の感情を読もうとしたが、今度は(表情には出さないが)私が戸惑う番だった。わからないのだ。今までにも何を考えているのかわからない奴はたくさん見てきたが、明らかに本人の意思で感情を閉ざすことのできる人に会ったのは自分を除けば初めてだった。それで、私は啓子の誘いを受け(普段なら断る。面倒だから)、今こうして隣に座っているのだ。

しばしの沈黙の後、私は軽く息を吸い込み切り出した。
「ねえ、さっきから気になってることがあるんだけど」

8月15日 更新

「空気が読めるってどういうことなんだろうね」
「えっ?うーん…」
啓子の反応をみた瞬間、私は「しまった」と思った。これじゃあ、啓子が空気が読めないって言ってるようなものだ。それに、啓子の様子を見ているとこの言葉にあまりいい思い出がなく(いや、むしろ嫌なことがあったのだろう)、NGワードだったようだ。というようなことを、私は一瞬で感じ取り、すかさず付け加えた。
「ごめんね、急に変なこと聞いちゃって。あたし、よく言われるのよね、もっと周りの空気読めって。でも、あたし性格悪いからさ、ついついひねくれた態度ばっかりとっちゃうのよね。だから、友達も少なくってさ。でも、いちいち人の顔色ばっかり窺うのってなんか嫌だなって思って。みんなが必死になって空気読もうとしてるのってなんでかなって思うのよね…。ごめん、今の忘れて。変なこと聞いちゃってごめんね」
私は内心、「疲れた」と思っていた。さっきまでは興味の対象だった啓子も他の人たちと同じように煩わしく感じてしまっていた。しかし、このあとの啓子の話は私の予想外のものだった。
啓子は俯いたまま、
「ううん、私もよく、言われるから。でも、あけみがうらやましい。私、小さい頃はよくしゃべる子で、それで親からもっと周りのことを考えてから話しなさいってよく怒られてたの。それで、それで小学校も3年生くらいになる頃には人の気持ちをよく考えようって思うようになってたの。でも、今度は友達から人の顔色ばっかり窺ってムカつくって言われるようになって…。だから、私、どんどん卑屈になってこんな暗い性格になったの。人の顔色ばっかり窺って、でも、誰とも仲良くなれなくて…。だから、あけみみたいに強い子がうらやましいなって思うの。あ、私こそごめん。こんな話聞きたくないよね」
もしも、啓子が泣いていたら私は彼女を放って立ち去っただろう。でも、彼女は笑っていた。しかし、その笑顔には疲れと諦めが深く刻まれていた。自嘲というのはこういくものだ、というのを具体化したような笑顔だった。
私の中には明らかに怒りの感情が芽生えていた。もちろん、啓子にではない。啓子の両親と友達(と、啓子は言ってるけど、こんな奴らは友達なんて言う必要ない)にである。おそらく彼女は親からは厳しい躾(ひょっとしたら虐待までいってるかもしれない)を受け、友達からはいじめられてきたのだろう。これで啓子の時折見せる怯えたような表情に合点がいった。そして、もうひとつ気づいたことがあった。
「ねえ、啓子。啓子が桜が苦手っていうのはひょっとしてクラス替えの時期だったから?」
啓子は驚いた表情を見せたあと、頷き、ゆっくりと話し始めた。
「私の地元って学校が少なくって私立にでも行く以外は小学校から高校までほとんど同じ顔触れだったの。私のことを嫌ってる人にも中心になる人がいて、みんなその人を怖がって仕方なく合わせてたみたいだったから、せめてその子と別のクラスになればいじめられなくなるかなって思ったんだけど…」
「ずっと同じクラスだった…?」
啓子は黙ったまま頷いた。
「でも、仕方ないわよね。私みたいに暗い女いじめてくださいって言ってるようなものだし、私はあけみみたいに強くな…」
啓子が全部言い終わらないうちに、私は彼女の頬を思いっきり叩いていた。私は呆けている啓子に追い打ちをかけるようにきつい口調で言い放った。
「あたし、自分がいじめられても仕方がないって言う人大嫌いなの。いじめはいじめる側が100%悪いに決まってるじゃない。あたしもあんたと同じように人の顔色窺ってばかりだったわよ。あんたとおんなじような嫌がらせもうけたわよ。それが何よ、相手がいじめる口実自分でつくっちゃって」
そこまで言って、私は胸糞が悪くなり、「さよなら」と言い捨ててその場を去った。振り返ると、桜散る中、啓子は一人うずくまったまま動かなかった。

その夜、私は後悔の嵐に苛まれた。「いじめはいじめる側が100%悪い」と言っておきながら今まで散々いじめられてきた啓子に対してひどいことをしてしまった。これじゃ、いじめてる奴らと一緒じゃないか…。ところが、翌日大学に行ってみると
「あけみ!」
とても元気な声が後ろから私を呼びとめた。振り向くとそこには啓子がいた。しかし、昨日までの全身を覆う負のオーラの代わりに、溢れんばかりの生命力を発していた。
「昨日は、ひどいことしてごめん」
きまり悪く私は謝った。
「いいのよ。むしろあたしはあけみに感謝してるの。よく考えたら、暗いあたしを目の敵にしてた人たちの方がよっぽど暗いなって思ったし、それに、いじめはいじめる側が悪いって言い切ってくれたのは、あけみが初めてだったの。すごく嬉しくて、初めて自分に自信が持てるようになれた。だから、ありがとう」
最後の一言に少し涙腺が緩んだが、なんとかこらえて笑顔で応えた。
啓子は今日からドライでかっこいい女になるという。私も女だけど、つくづく女はわからないと思う。



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COMMENTS

こんばんは。
人の負のオーラが見えるのもつらすぎますね。
深く考えさせられる小説です。
俺も四葉さんみたいな小説を書けるようになりたいです。


それとよれければ我がサイトのリレー小説にもご参加、下さい。

No title

物語のテンポが良くなってきて読みやすいです。
続きwktkして待ってます☆

>>SE・志望さん
多かれ少なかれ皆、人の感情を読みあってますよね。彼女の場合は特にそれが敏感なだけで、ごく普通の女の子です。決して「見えるっ!」なんて言いません♪
>>要人さん
ちょっとくどくて読みにくいかなぁと不安だったんですが、安心しました。
もっと読みやすい文が書けるよう精進していきます。

リンクを追加してくれてありがとうございます。これからも続きを楽しみにしています。
頑張って下さいね!

>>SE・志望さん
こちらこそありがとうございます。
今PCが壊れて更新できない状況です(;_;)←携帯で書いてます。
直り次第すぐに更新と小説投稿させていただきます。

PCが早く直ると良いですね。
リレー小説にご協力頂ければととってよろいのでしょうか………。
四葉さんのブログの更新も楽しみにしています。

No title

今回のを読んで冒頭の部分を思い出すととっても続きが気になります。
これからこの二人はどうなるんでしょうか?wktkして待ってます♪

>>要人さん
今回までは二人の出会いを中心にプロローグ的な話でした。
次から不幸というか欝な内容が増えてきます(′・ω・`)

No title

先日はコメントありがとうございました^^
「桜散る中」読ませて頂きました。
とても読みやすい文章で心理描写が見事ですw
これからどういった経緯でプロローグに繋がるのか
とても楽しみです♪

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