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桜散る中 第三章

入学式は啓子と名字が似ていたので、私達の座席は隣同士だった。少しでも知った人が隣にいるという安心感はあったものの、二人の間に特に会話はなかった。私は無言がそれほど苦痛ではない性分だったので、特に気にならなかったが、啓子はどうかはわからなかった。
長いだけでこれといった特徴のない入学式(マサイ族に入学式を教えるとしたら最高の出来映えだったろう)が終わり、退場へと場内の場内の雰囲気が移行しているとき、啓子が話しかけてきた。
「ねえ、せっかくだから学内廻ってみない?桜も綺麗だろうし」
「いいわよ」と私は答えた。「その前に一服してきてもいい?」
「うん、私も付き合うわ」
こんな綺麗な娘もタバコを吸うのかと驚いたが、私も吸うので特に何も言わなかった。
喫煙所に行くと、案の定、男ばかりだった。私達は隅の方で、私はマイルドセブン、啓子はヴァージニアスリムを吸った。周りの男共は啓子を興味深けに眺めていたが、私が隣で近寄るなというオーラを全身から発していたので誰も話しかけて来なかった。

灰皿にタバコを投げ捨て、私達は午後のキャンパスを歩いた。日の光に当てられて、桜の花々が輝いている。
隣を歩く啓子は自分から桜を見に行こうと誘ったくせにずっとうつむいたままだった。
「ねえ、さっきからずっと下向いてるけど体調でも悪いの?あ、ひょっとして喫煙所?ごめんね、あたし、タバコ吸うとき眉間に皺寄せる癖があるの。怒ってるように見えるからやめなさいって言われるんだけどね」
私が早合点して話すと、啓子はとても上品に微笑み首を振った。
「違うの、私、桜の花を見てたらちょっと嫌なこと思い出しちゃって。とってもきれいなんだけど、どうしても…ね」
彼女はそう言うとまたうつむいた。
「ごめんね、自分から誘っておいて。でも、あけみともう少し話してみたいなって思って」
「私と同じね」
「え?」
「私も桜ってあんまり好きじゃないの。それに、啓子とおしゃべりしたいなって思ってることもね」
自分でも歯が浮くような言葉だと、言ってしまった後で急に恥ずかしくなったので、私は間を埋めるように続けた。
「あ、じゃあグランドの方に行ってみない?今日はさすがに人もいないだろうし、周りも芝生になってるらしいわよ」
そして、資源の無駄遣いを象徴しているようなパンフレットの中からキャンパスマップを取り出し、グラウンドの場所を探した。

グラウンドに着くと、予想通り人はあまりいなかった。しかし、その代わりにグラウンドを囲む緑の絨毯の中にあまり大きくない桜の木が点々と立っていた。
「ここにも桜があるね」
と私は言った。
「でも、他のと雰囲気が違う。何て言ったらいいんだろう、嫌な気持ちにはならないわ」
と啓子は答えた。私も同じように感じていたので、ゆっくりと不思議な感じのする桜に近づいた。
「何かしら?これ」
私はその桜には小さな板が下げられ、人の名前が書かれていることに気づいた。それは一本だけでだけでなく、ここにある桜全てに下げられ、皆、違う名前が書かれていた。その板を手に取り、
「卒業生が寄贈でもしたのかな」
と言っていると、
「その桜はこの大学を卒業できなかった人のものですよ」
後ろから声をかけられたので振り向くと、首からカメラを下げた背は低いが恰幅の良い初老の男性がいた。
「退学した人のために桜を植えてるんですか?」
と啓子が聞くと、男性は優しく微笑み、
「退学ならもっと良かったんですけどね。ここにある桜たちは在学中に亡くなった学生の名前が付けられているんですよ」
啓子は自分の不躾な発言に対して俯いてしまった。そんな彼女を諫めることなく彼は続けた。

8月1日更新

「ここにある桜は病気や事故、とにかく在学中に無念にも命を落とした学生のために植えられ始めたんですよ。誰が始めたのかは知りませんが。君たちは正門からの桜並木は通ったかい?」
「はい」
と私は答えた。男性は優しく頷いた。
「皆が見るところの桜は観賞用で人の意志が込められていない。景観は素晴らしいがね。
だが、ここの桜には一本一本に人の意志がある。だから見てごらん。こんなに細い幹なのにとても力強いでしょう」
私達は今度は無言で頷いた。男性はまた微笑んだ。
「だから私はここの桜の写真を好んで撮るんですよ。一本一本に込められた生命の息吹きを感じるためにね」
そう言うと男性はあの優しい眼差しで桜を見つめた。心なしか、この桜が喜んでいる気がする。
「おっと、ついつい長話してしまった。いけませんなあ、年をとると説教染みてしまって。
それでは私はこれで。お嬢さん方、あなた方の年は悩みも沢山おありでしょう。でも、命だけは大切にしなければなりませんよ」
そして、男性はゆっくりと立ち去った。
私は桜を見上げ呟いた。
「本当の屍桜か…人の意志の込められた…」
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COMMENTS

お久しぶりです!

なんか俺の中では不幸と戦って成長していくストーリーが頭の中で妄想されていってますwww

早く続きが見たい!というと利己的な意見ですのでのんびりと更新を待ってます。

それではノシ

面白いので
こちらのブログをリンクに追加しました。

>>SE・志望さん
面白いといってくださるだけでなく、リンクまで貼っていただき恐縮です。

>>キイトさん
最近忙しくてなかなか更新できずにいました。これからは定期的に書いていくので、お互い頑張りましょう!

隣を歩く啓子は自分から桜、の続きがまた飛んでいるような・・・。
私のPCだけでしょうか?

>>要人さん
ご指摘ありがとうございました。携帯で書いてるので不具合が生じたみたいです。修正しましたので、読んでいただけるとうれしいです。

No title

作品にマッチした素敵なテンプレートです。
携帯からの投稿でしたか!?それは大変ですな。
これからも頑張って下さい!続き楽しみにしてます♪

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