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桜散る中 第一章

私は今、嬉々として荷物をまとめている。
三年間しかもたなかった結婚生活、彼には血は繋がっていないのに親権はとられ、挙げ句の果てにうつ病で入院する羽目になるという災難ばかりが続いていた。
そんな時、大学時代からの親友、啓子から旅行の誘いが来たのである。

一ヶ月前
「はい、もしもし」
「もしもし、あ、あけみ?久しぶり。あたし、啓子だけど」
「啓子?ホント久しぶり、啓子の結婚式以来ね。どうしたの、急に?」
「うん…、人づてに聞いたんだけど、あけみ入院してたんだって?もし嫌だったら無理しなくてもいいんだけど、二人で旅行にでも行かない?あけみ大学のとき京都が好きって言ってたから桜見に行きましょうよ」
「嫌だなんて全然思ってない。むしろ誘ってくれてすごく嬉しい。でも、退院したって言っても完治はしてないから病院の先生に相談してからでもいい?」
「うん、大丈夫!待ってるね」

というわけで、医者からも大いにいいことだと太鼓判をもらい、不運続きで落ち込んだ気分を吹き飛ばすために、私は旅行に行くことにした。


再び時計に目をやる。
「新幹線出ちゃうよ」
新幹線の出発時間は一時半、今は一時を過ぎようとしていた。啓子は昔から少し時間にルーズなところがあるので十二時に待ち合わせとしたのに、これはあまりにも遅すぎる。いらつく自分に「いかんな」と思いつつ、精神安定剤を飲もうとしていると、唐突に携帯がなり始めた。

電話の主は啓子のご主人の直樹くんからだった。
「もしもし」
「あ、もしもし、あけみさんですか?」
「ええ。お久しぶり。あの、啓子がまだ来ないんだけど、どうかしたの?」
「はい…、実は、妻が駅に行く途中のバスで事故に遭って…」
「え?」

その瞬間、私は忘れかけていた恐怖心がゆっくりと起き上がるのを感じた。
何とか教えてもらった病院に着いた。
直樹くんの話では啓子は珍しく早起きし、家を出たそうだ。しかし、その途中、バスの運転手の不注意で電柱にぶつかったのだ。幸い、死者は出ず、怪我人も多くは軽傷で済んだ。
しかし、不運にも啓子は頭を強く打ち、意識不明の状態に陥った。後から聞いたのだが、お年寄りに席を譲ったために立っていたことが災いしたらしい。

恐る恐る病室のドアを開ける。そこには丸椅子に座る直樹くんとベッドに横たわる啓子の姿があった。彼はこちらを振り向き、
「あけみさん」
「啓子は…?」
「今は落ち着いてます。でも、頭を強く打ったので、まだ安心はできないそうです」
私の顔を見ながら話す彼に対し、私の目はベッドの上の啓子に釘付けになっていた。
さまざまな機械に囲まれ、そこに映る心電図は安定しているものの弱々しい。しかし、最も私の目を捕らえたのは頭である。私の知る啓子はとても綺麗な髪をしており、ケアに手間のかかるロングヘアはいつもつややかで、彼女の端正な顔にとてもよく似合っていた。
しかし、今目の前にいる啓子の頭には包帯が巻かれ、治療のために髪の毛はすっかりなくなっていた。
「ご迷惑をおかけしてすみません。こいつ、旅行をすごく楽しみにしてて、ここ数日はあけみさんのことばかり話してました。今朝もあんなに元気に出掛けたのに…」
直樹くんの声は嗚咽に変わり、顔を埋めて咽び泣き出した。
「ごめんなさい」
いたたまれなくなった私は誰にともなく呟いた。
「あけみさんに悪いことはないです。啓子の運が悪かったんです」
彼はそう言ってくれたが、私には自分に対して激しい嫌悪感を抱いていた。昔からそうだった。私は人を不幸にしてしまう。
別れた夫にしてもそうだ。私たちには子どもが一人いる。しかし、夫と子どもは血がつながっていない。私が結婚前に別の男性と関係を持ってしまったためだ。それでも、彼は私を責めるどころか、子どもも私をも愛してくれた。だから怖かったのだ。こんなに優しく心の広い男性を不幸にさせてしまったという罪悪感、今度は子どもさえも不幸にしてしまうかもしれないという恐怖、それらのプレッシャーからいつしか私は二人に対してきつく当たるようになっていた。
離婚を言い出したのも私の方からだった。結婚して三年たっても私の恐怖心は和らぐことなく心を蝕み続けた。夫はまだ私を愛しているとってくれたが、もう、その時の私には逃げ出す以外のことは考えられなくなっていた。
しかし、最も強く思い出されるのは大学時代のことだ。そう、ちょうど啓子と会ったばかりのことだ。
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啓子は昔から少し、の続きが急に飛んでいるような・・・。

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